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名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)4287号 判決 1999年3月26日

原告

河邉正篤

ほか一名

被告

伊藤則夫

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告ら各自に対し、金一八七九万六〇六七円及び内金一七一四万六〇六七円に対する平成七年五月二九日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らの子である訴外河邉輝充(以下「輝充」という。)運転の車両と被告運転の車両との衝突により輝充が死亡した事故につき被告に責任があるとして、原告らが被告に対し民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条に基づき損害賠償の請求をした事案である。

一  争いのない事実等

1  左記の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成七年五月二八日午前三時三五分ころ

(二) 場所 愛知県小牧市小牧四丁目二三〇番地先路上

(三) 第一車両 普通乗用自動車(名古屋三四て八六三八)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

(四) 第二車両 普通乗用自動車(尾張小牧五八る四四七七)(以下「輝充車両」という。)

右運転者 輝充

(五) 事故態様 片側幅員約三・五メートルの南北道路(県道名古屋犬山線。以下「南北道路」という。)と、片側幅員約三メートルの東西道路(県道高蔵寺小牧線。以下「東西道路」という。)が交差する、信号機による交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)において、南北道路を北から南に進行してきた輝充車両と、東西道路を東から西に向けて進行してきた被告車両が衝突した。

(六) 結果 輝充は、平成七年五月二八日午前四時五分ころ、本件事故に基づく脳挫傷の傷害により愛知県小牧市所在の小牧市民病院において死亡した。

2  相続

原告らは、輝充の父母であり、輝充の死亡により相続分各二分の一の割合で相続した(本件記録中の戸籍謄本)。

3  損害の填補 三〇〇〇万二六〇〇円

原告らは、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から三〇〇〇万二六〇〇円の支払を受けた。

二  争点

1  本件事故の態様及び過失の有無、程度

2  過失相殺の有無、割合

3  損害額

第三争点に対する判断

一  争点1、2について

前記争いのない事実等及び証拠(甲五の1ないし3、七ないし一三、一四の1、2、乙四ないし六、七の1ないし10、八ないし一二、一三の1ないし21、一四ないし一八、証人中川謙治、被告本人、調査嘱託(小牧警察署))によると次の事実が認められる。

1  本件交差点は通称「小牧四丁目交差点」と呼ばれており、信号機による交通整理が行われていた。そして、本件事故当時、輝充車両の走行していた南北道路の対面信号機は青色四六秒、黄色三秒、赤色三一秒の順に点灯するよう制御されており、これと対応して被告車両の走行していた東西道路の対面信号は、赤色五六秒、青色一八秒、黄色三秒、赤色三秒の順に点灯するように制御されていた。なお、東西道路の制限速度は時速三〇キロメートルであり、南北道路の制限速度は時速四〇キロメートルであった。

2  被告は、平成七年五月二七日午後一一時ころから愛知県春日井市所在のレストランで取引先の客と食事をしたがその際にウィスキーの飲酒をした。そして同月二八日午前一時ころ右レストランを出発し、愛知県小牧市所在の前記取引先方に寄り、同日午前三時ころ同方を出発し、被告の事務所に向かう途中、本件交差点に至った。

3  被告は、本件事故の直前、東西道路を東から西に時速約四〇ないし五〇キロメートルの速度で走行し、本件交差点の停止線手前二一・二メートルの地点で対面信号機が青色であることを確認し、そのままの速度で本件交差点に進入した。その際、輝充車両が南北道路を南進して本件交差点に進入し、輝充車両左側部が被告車両右前部と衝突した。

4  被告車両はその衝突によって本件交差点の南西方向に飛ばされ、南西角のガードレールに衝突して、車両前部を南東に向けて停止した。輝充車両はその衝突によって本件交差点の南西方向に車両前部を北に向けた状態で飛ばされ、南西角にあるコンクリート塊に車両後部を衝突させ、その後四分の一くらいの弧を描いて西方に飛ばされ、本件交差点の西方一四・五メートルの地点で車両前部を南に向けて停止した。

5  本件事故直後の飲酒検査によれば、被告は呼気一リットル当たり〇・二五ミリグラムのアルコールを帯びる酒気帯びの状態であった。

以上のとおり認められる。

これに対し、原告らは被告の対面信号が赤であったのであり、また被告は時速約九四キロメートルの速度(なお輝充も時速約八三キロメートルの速度)で本件交差点に進入したと主張する。そこでまず被告車両の対面信号の色の点についてであるが、被告の供述は対面信号の色の確認地点の指示説明が具体的であること、対面信号のサイクルに照らして合理的であることなどからして信用でき、したがって、被告車両の対面信号の色は前記認定したとおりであり、これを覆すに足りる証拠はない。

次に速度超過の点であるが、原告らはこの点につき計算方法を示し、被告の速度は時速約九四キロメートルであると主張する。しかし原告らの示す計算方法については、被告車両の衝突した前記ガードレールの強度につき所定の設計条件を満たしているはずであるとして、このことから被告車両のガードレール衝突時の速度を推測していること、衝突位置と停止位置との角度を用いて速度を算出するに当たり、本来前記ガードレール、コンクリート塊が存在しなければその後被告車両、輝充車両がいかなる角度の方向に進行したか明らかではないはずなのに(衝突後両車両はそれぞれ曲線運動をしていたものと推認される。)、ガードレール、コンクリート塊への衝突、停止位置を基準に当然に同様の方向に無限に直進していくものと仮定していること等その推論の前提条件に疑問がある。したがって、原告らの右主張は採用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、以上によれば、被告は対面信号が青色の状態で本件交差点に進入したこと、これに対し輝充は対面信号が赤色の状態で本件交差点に進入したことが認められる。しかし、他方、被告は本件交差点に進入するに当たり制限速度を時速一〇ないし二〇キロメートル超過する速度で進入したこと、酒気帯び運転をしていたこと等の事実が認められ、これらによると、本件事故発生については輝充側の過失が九割、被告側の過失が一割であったものと認めるのが相当であり、後記原告らの損害についても右割合の過失相殺がされるべきである。

二  争点3について

1  葬儀費用(請求額三〇七万五五一七円) 一二〇万円

証拠(甲四の1ないし3)及び弁論の全趣旨によると、原告らが輝充の葬儀費用として三〇七万五五一七円相当を支出したことが認められるが、右のうち本件事故と相当因果関係にあるものとしては、頭書金額をもって相当とする。

2  逸失利益(請求額三八二一万九二一六円) 三七五〇万三六四二円

証拠(甲一、三の1、2)及び弁論の全趣旨によると、輝充は本件事故当時二一歳で、四年制の専門学校及び四年制大学(通信教育課程)の四年生在学中で就職活動中であったことが認められる。

そこで、平成九年(平成一〇年版)賃金センサス第一巻第一表、産業計・企業規模計・大卒・二〇~二四歳男子労働者平均年収の三二二万八八〇〇円を基本とし、生活費控除率を五割、就労可能年数を四五年(二二歳から六七歳まで、新ホフマン係数二三・二三〇七)として算出すると頭書金額となる。

3,228,000×(1-0.5)×23.2307=37,503,642

3  慰謝料(請求額二三〇〇万円) 二二〇〇万円

本件事故の態様その他本件に現れた諸般の事情(ただし、過失相殺に係る分を除く。)を考慮すると、輝充の死亡につき、原告らが相続した輝充自身の慰謝料と原告ら各自の固有の慰謝料との合計は頭書金額と認めるのが相当である。

4  合計(請求額六四二九万四七三三円) 六〇七〇万三六四二円

以上の合計は頭書金額となる。

5  過失相殺後の金額 六〇七万〇三六四円

前記のとおり本件にあっては原告ら側に九割の過失があったとみるべきであるから、これによると頭書金額となる。

60,703,642×(1-0.9)=6,070,364

6  既払金 三〇〇〇万二六〇〇円

自賠責保険から頭書金額の支払があったことは当事者間に争いがなく、これによると前記金額を超える既払金があったことになる。

第四結論

よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 北澤章功)

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